身体コンサルタント / 柔道整復師 田上耕三の身体研究コラムColumn

※このコラムは、身体コンサルタント田上耕三が考える「身体へのアプローチ方法・施術方法」に基づき書かれています。そのため、著作権法上著作者の許諾なくコピーすることを禁止します。
著作権侵害となる可能性もありますので、使用する場合は、田上耕三までご一報をいただけますようお願いいたします。

演奏する時の腕のポジション2

1)何指が中心なのか
 演奏する時の腕のポジションとは、どの指が中心になって演奏すれば自然で楽に弾けるか、ということを考えてみようという趣旨になります。
どの指が基本でも良いじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、音楽は芸術なのだから、思うまま感情の赴くままに弾けばそれで良いのだという考えもあると承知しております。
だけれど、私たちの身体は使い方ひとつで、楽にもなるし、苦しくもなる。そういう仕組みにできているのです。このことは、「演奏する時の腕のポジション1」で、関節軸を合わせた動作が筋肉にストレスのかからない動作なのです。ということでお話ししました。

 敢えて、動かない指をそのままに、遠回りして練習したいのだ、と言うならばもはやここにいる必要はありません。しかし、良く動く指で疲れを知らず弾く人がいて、自分がそうではないのなら、その原因を考え改善させていくことは、音楽とかけ離れたものではなく、音楽の一部と考えて良いのだと私は考えています。
野球選手は、野球だけで選手になるのではない。ランニング、筋トレ、ストレッチ、フォームの研究などと共に野球をしています。柔道の選手も、柔道だけでは強くなれない。身体作りをして作った身体で柔道を稽古し、柔道力として身体に落とし込む。そうして強くなります。
音楽演奏も同じだと思います。食わず嫌いで終わらず先ずは知り、そしてトライして欲しいと思います。

 2)腕の回内軸を知る。(解剖学的に見地から)
 演奏する時は手のひらを下に向けます。この動作を「回内」と言います。
前腕部には、骨が二本あります。橈骨と尺骨という骨です。
尺骨は肘から始まりますから、肘を曲げた時に尖っている部分が尺骨の肘頭といいます。
この尺骨を軸に橈骨が移動して手のひらを下に向けることができます。
尺骨は、手首では小指側にある骨です。橈骨は親指側にある骨となります。


画像が荒くて申し訳ありません。黒い線が橈骨の回転軸になります。
この状態は二本の骨が並行して並んでいる状態ですね。そこから、回内をします。

回内すると、ピアノの演奏肢位になります。
この時に先ほどの黒い線が回転しますから、実際には腕の真ん中にあることになります。
並行して並んでいた骨が回内でクロスしています。

一応軸を描きましたが頭の中で3Dのイメージを膨らませてください。

骨がクロスしているので下が橈骨上が尺骨です。
人間の腕は真っすぐに見えて実は少し外側に反っています。肘関節の外反と言います。

こんな感じです。
いずれにしても小指側に走っていきます。このことはゴルフのクラブを握る時でも小指がだいじですし、
剣術の握りも小指が肝心となります。以前合気道の先生が、「昔のヤクザが小指を詰めたのは、小指を詰めると刀が持てなくなるからだ」と教えてくださいました。なるほど、と思ったものです。

こうやって解剖学的に概観すると、私たちが意識してもしなくてもこの軸上の動きをしているということが理解できます。しかし、実際には筋肉の緊張のバランスが悪いと正しい動きはできません。
だからこそ、正しい動きができる身体作りが必要になるのです。
スポーツの世界ではスポーツ医学として知られています。

次に、腕の回内をした時に綺麗に、つまり正しい橈骨の回内運動ができれば指は前腕の真ん中に3指が来るはずです。
(写真のアングルが悪いですが、3指が前腕の真ん中に来ています。)
そのため、3指を中心に指を開けば「外転」閉じれば「内転」と呼び、さらに小指の方に手首が曲がる状態を尺屈といいますが基準は3指となります。親指側に手首を曲げるのは「橈屈」といいます。

 3)小指が中心?
ここまで、軸を中心に考えてみると、回内であろうが回外であろうが、軸線は小指に向けて走っていますから、小指を中心に考えるのが妥当に思えます。
この点について、東京未来大学の「ピアノ学習者の演奏姿勢について -軸を意識した座り方に関する考察ー:田中拓未 東京未来大学研究紀要2010年第3号pp.37-44」という論文において、軸を意識していくことが力の抜けた状態を作り、演奏学習の効率を高めると示しておられます。また、この中で演奏が「親指主導」か「小指主導」かと言うことにも触れられ、論文の中では「小指主導を」推奨しておられます。

田中拓未氏の「小指主導」については、具体的には鍵盤に指を置いた時に親指以外が鍵盤に乗る状態で小指と前腕の線が直線状にある状態で使うと示しておられます。
結局、小指が前腕の延長に来る状態とは、3指が前腕の真ん中に来ている状態ということになります。



「親指は外に出るのが自然で2指がギリギリ鍵盤に乗る状態」が自然な手の状態であるとされています。

論文中では、実際の楽曲を用いて先ず、親指以外を憶えその後に親指の使い方を学ぶべきだとされています。


 4)手のひらのアーチと3指
演奏する時にもう一つ極めて重要なのが「手のひらのアーチ」の存在です。
前腕が正しく回内できたら、第3指が真ん中にきます。演奏する時に手のひらが軽度に丸みを帯びアーチを作ります。
このアーチは、演奏する際の”指の土台”となります。

これは、基本的なポジションであり、常にこの状態を維持するということではありません。
アーチは、横のアーチと縦のアーチがあります。これらが前腕中央部3指を中心にできています。
このことからも、中心は3指であると考えます。
(別の項で手のアーチについては触れる予定です)

考察
 ここまで、なぜ3指なのかを示してきました。
それは、綺麗な回内ができれば必然的に3指が真ん中になり、尺屈せず手首が固まることも避けられるからです。
3指を中心軸とした”しなやかな軸”が実際の演奏には必要なのだと考えたのです。
おそらくですが、田中拓未先生のお考えの「小指手動」は、私の回内軸があえば必然的にそうなるという考えと大きくずれてはいないと考えてます。実際のピアノ指導の手順などは、私の考察の及ばない所です。

河村先生ともこの点については随分話し合いました。
この先は音楽的な考察が含まれますので、私が勘違いしているといけませんのでここでは記しません。(笑)

このレポートが、学習者の皆様のお役に立つことを切に願っております。

身体コンサルタントとして、「コラムについてのご質問」「勉強会・講習会の開催」「取材依頼」なども受け付けております。ご依頼に関しましては、お問合せよりお申し込みをお願いいたします。

お問合せフォームでは診療のご予約は出来ません。
診療のご予約は下記のお電話番号よりお願いします。

058-327-6660
診療時間 / 9:00-18:00 日曜 9:00-13:00
休診日 / 毎週火曜日、祝祭日