手のひらと演奏
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- Category : 身体へのアプローチ方法
手のひらと演奏は、一見関連が無さそうに思えます。「ピアノは指で弾くもの」というイメージが強いせいだと思います。
しかし指が自由自在に使えるのは、指の土台である手のひらがしっかりとしていることが条件になるのです。
例えば、私達が物を持つ場合、物を直接つかむのは腕ですが、物の重量を含め力学的にかかる力を受け止めるのは「腰」なのです。このように動かす部位と支える部位があるんです。手のひらの筋肉とは、「中手筋群」とよばれる筋肉群です。ピアノ演奏はもちろんですが、バイオリンやビオラなどの弓を持つ手の動きも中手筋は重要な働きをしています。
さて、そんな中手筋ですが筋肉の名前を記しておきます。
①背側骨間筋
②掌側骨間筋
③虫様筋
を合わせて中手筋群と分類しています。
(図は、PROMETHEUS LernAtlas der Anatomie 医学書院から書き写し)
骨間筋とは。
ピアノを弾く時に指の間を広げたり閉じたりします。これはオクターブに届く届かないという大きな問題が有ります。それで、昔はゲンコツを作ってそれを指の間にねじ込むようにして広げていった、という話を聞いたことがあります。指を広げる筋肉は、骨間筋の仕事です。骨間筋は、手のひらの奥の方に在りますから、関節を押し広げてもあまり意味がありません。指を広げるには骨間筋が良く働く環境を作らないといけないということです。
虫様筋とは。
この小さな筋肉は、指の関節第一関節や第二関節を曲げる時に指の曲げ伸ばしの筋肉に呼応して働きます。この絶妙なタイミングで動くことで指は上手に曲げ伸ばしができます。もし虫様筋の動きが悪いと、曲げるの伸ばすのもギクシャクすると考えられます。
この三つの筋肉は、MP関節という手のひらと指のジョイント部分を曲げる時に全て動きます。MP関節を曲げるとは、つまり演奏する時の基本的な構えを作るのに欠かせない筋肉だということです。
上の写真は、ピアノを弾く時のいわば「構え」といって良いと思うのですが、とにかく写真のようなところから弾き始めます。この態勢を作るのに中手筋群はそれぞれ呼応しながら動いているです。
第一関節はDIPディップとよみます。第二関節はPIPピップと読みます。
なれるとディップ・ピップの方が間違えが無くなります。是非、憶えておきましょう。
① 演奏する時にMP関節がへこんでいる方
MP関節に限らず、DIP関節、PIP関節がへこみながら弾く人の音は、なんとなく音色が「柔らかすぎる」印象を抱かせます。その原因は、打鍵の音がへこんだ関節で逃げてしまうからではないかと考えています。
上の写真ではDIP、PIPとも曲げられていますが、MP関節が曲げられていて、PIP、DIPがへこむという場合もあります。
では、どうして関節がへこむのかが問題となります。
そうです、この方は中手筋群の働きが弱いと考えられるのです。
対策
中手筋群をよく動かすようにするには、よく使う必要があります。
そこで今回二つの体操をご紹介します。この体操を行うと中手筋が強制的に使われます。中手筋の働きの弱い方にとっては、かなり疲れる体操になると思いますが、頑張って下さい。
体操名「アヒル」
アヒルのくちばしをイメージして行うと良いよ。
4本は寄せて親指は外に目得一杯広げます。
そこから、MP関節を後ろに引くようにします。
MP関節を曲げるようにすると「アヒル」にはなりません。
それはただの指曲げ運動になります。(笑)
上のはダメな例です。
指を曲げているだけなのが分かりますよね。
これは、曲げた時に小指下がりになっていますね。
できるだけ人差し指から小指までが
水平になるように頑張ってください。
MP関節を後ろに引くようにやればできます。
こんな感じです。
アヒルが正しくできると、単にMP関節を曲げた場合に比べ
曲げ角は浅いのが普通です。
指を曲げることが目的ではなく、手のひらの中の筋肉をしっかり動かすことが目的です。
MP関節を後ろに引く動作が、アヒルのくちばしを連想させたことで
アヒルという名前をつけました。
もう一つ
体操名 「合掌モミ引き:がっしょうもみひき」
合掌して指を付け根に押し込みます。
一番上の解剖図をもう一度見ていただくと
筋肉の付着部がMP関節のところになっています。
モミ引きはマッサージするのではなく
筋肉の付着部の「腱」を軽く押圧をかけて
ゆっくりと引きます。
そうして耳を澄ますと、ま、よ~く身体の声を聴くと
手のひらの中で筋肉が伸ばされる感覚がでてきます。
ストレッチをするのではなく、筋肉の束を動かすことで
血流を改善させ、固まっている筋肉を動く筋肉に戻そうというものです。
モミ引きですが、揉んで揉んでとやると初めは良くても、結局筋肉が硬くなります。
ですから、ゆったりと揉むように見えますが、引くために掴むと
考えてください。
體暢心愈静