身体コンサルタント / 柔道整復師 田上耕三の身体研究コラムColumn

※このコラムは、身体コンサルタント田上耕三が考える「身体へのアプローチ方法・施術方法」に基づき書かれています。そのため、著作権法上著作者の許諾なくコピーすることを禁止します。
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音楽演奏障害 はじめに

田上耕三

『先生、これ知ってる? こうゆうの。これマムシ指って言うのよ、治るかなー』
と言いながら、親指を不自然な形にして見せてくださいました。この方は、河村義子先生とおっしゃる方で、僕と音楽を結びつけることになった最初の一言です。
 先生は岐阜県大垣市で「かすみの会」を主宰するピアニストであり、優れたピアノ教師でもいらっしゃいました。
かすみの会」は、クラッシクコンサートの持つちょっと堅苦しいイメージを、コンサートを通じてもっと身近に感じて欲しい。その魅力に触れてもらいたい、との氏の想いに賛同した音楽家の集団である。ドイツやニューヨークから著名な音楽家を招いてのコンサートや、クラシックバレエとのコラボレーションなど、魅力あるコンサートを精力的に企画されていました。
コンサートホールでの活動の他、地域の幼稚園、基幹病院の院内コンサート等も快く演奏にいかれ、音楽を通じた文化事業、青少年育成事業など幅広い活躍をされていました。

 河村先生から毎日ピアニストの手の悩みや、指導している生徒達の手の状態など様々な相談をうけ、実際に事例を見させていいただく機会を得ました。
驚いたのは楽器演奏によって、体に何らかの不調を訴える方が意外に多いことでした。あれだけ指の反復運動を、長時間つづけてトラブルが無いことの方が不思議なことです。
反復性疾患では、キーボードを打ち続けることで起きるキーパンチャー症候群や、工場のラインで一定の作業を繰り返すなどで引き起こされる労働障害にもよくみられます。
スポーツでも反復動作が多く、競技ごとにいろいろな障害を起こすことはよく知られています。スポーツ医学は、選手を障害から守るため、あるいはポテンシャルを上げるために様々な視点で研究されています。

では音楽はどうでしょうか。言うまでもなく楽器演奏も身体操作の一つです。しかもスポーツに負けず劣らず相当ハードに酷使します。
しかし残念ながら演奏における身体操作について、スポーツ医学ほど研究されているとは言えません。これまで、楽器演奏が身体運用という視点で研究されてこなかったのは、音楽は芸術だ!という考えが強く、身体操作よりも、心に重きを置いてきたからではないかと思います。

スポーツのように、単に記録を伸ばすことを目的に、身体の運用をする分野ではないからです。
音楽は、演奏の技術だけで成立するものではないということです。

楽曲の持つ背景や作者の意図を理解し、演奏者が自らの「感じる心」で体を動かし、得られる音色が観衆の心のひだに触れることで成立するものなのです。

河村先生の視点はまさにこの点でした。音楽が芸術である以上、単に正確なだけの演奏に魅力はない。それなら、機械の演奏でも良いではないか。

人が演奏することの意味を突き詰めれば、心を身体操作に結び付け、音で「語る」ことなのだとおっしゃいました。
「語る音」は、どのような身体操作をすれば良いのか。その答えを河村先生と探してきたのです。「音楽は情操教育である」。生徒たちが一生懸命練習し、その成果が身につき、そして豊かな人間性を獲得するための場でありたい。河村先生の音楽教育の根底にあった想いです。
豊かな感情表現を探求し、がむしゃらに弾いた結果、身体の故障に悩む者、あるいは練習の成果が実らず挫折する者がいます。
一方で、練習がいち早く身につき開花する者もいる。この違いは天性のものなのか、あるいは誰でも一定の条件がそろえば開花するものなのか。

気が付けば河村先生と二人三脚で演奏と障害を研究し、演奏に要求される体の運用について多くの課題に取り組むようになりました。そして、平成22年には日本音楽表現学会において、河村先生との共同研究の成果をとりまとめ「あるべき音とあるべき身体の相関を探る」と題してワークショップにて発表いたしました。ピアノ演奏によって引き起こされる運動障害を「音楽障害」とよんで紹介し、医学的な見地と改善のための手段を紹介しました。

「あるべき身体」とはこの学会で初めて用いた用語ですが、音楽障害を予防しスキルアップを目指すために最も効率の良い運動ができる身体という意味で用いました。その手法として「整軸体操」という体操を考案し発表いたしました。体操はすべて即効性があり行った直後から変化を見ることができます。本書には医学的に専門的な事もかなり書かれていますが、体操の意味を理解して行う方がより効果的なのであえて書くことにしました。

みなさんの練習の成果が実り開花することを楽しみにしています。

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